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# 中山の民話

## 中山の民話　表紙
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【ページ内のテキスト情報】

信州松本発行松本市中山地区公民館挿絵鈴木幹夫作髙田充也

## 目次
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【ページ内のテキスト情報】

目次まえがき⑴泉いずみ小太郎こたろう⑵ねずみ穴あな⑶千巻せんかん清水しみず⑷生妻しょうづま⑸観音かんのん様さま⑹きつね穴あな⑺お八日ようかもち⑻だいだらぼっち⑼いぼ石⑽もの食くわぬ女房にょうぼう⑾金きん鶏けい伝説でんせつ⑿ちんちん塚づか⒀夜泣よなき封ふうじのお地蔵じぞうさん⒁犬猿けんえんの仲なか⒂犬のフクあとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

## まえがき
![まえがきの画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0003.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

まえがき中山公民館長鈴木幹夫髙田充也先生は御年９２歳。｢足がわるくて、毎日病院にかよっているわい｣とおっしゃる。そんな足を引きずりながら２０１８年暮れ、公民館に顔を出されて、「もう、見てのとおり、いついってもおかしくない齢になりました。今まで、書いてきた中山の民話をまとめた形の本を出せたらよいなあと思っております。本はこれで最後にしたい。」と話されました。今まで発表されてきた作品とはいえ、中山を舞台にした民話集ということであれば、何とかお力になれないかと考えた末、文章入力・構成や挿絵など、できることについては公民館でやり、住民の方のご厚意にも依拠したかたちで費用を捻出することにしました。結果、中山文化協議会の皆さんの働きかけにより多くの団体・個人のご賛同を得ることができ、ここに「中山の民話」を刊行することができました。紙面をかりて厚くお礼を申し上げます。

## 泉小太郎　１
![泉小太郎　１の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0004.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

泉小太郎昔、松本平がまだ湖だったころのことだ。湖のまわりは山また山でかこまれていたが、ところどころに村があって、そこに人が住んでいた。村人はせまい土地をたがやして、タネをまいたが、畑は石ころだらけで、とれるものは、ほんのわずかの食べ物だけだった。「ああ、いくら、あせ水たらして働いたって、こんなせめえ、石ころだらけの畑じゃ、食うもんも、ろくにとれねえ」

## 泉小太郎　２
![泉小太郎　２の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0005.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「今年も飢えて、死んでいった人もいるでなあ」あの湖の水を流して畑を作ったら、広い土地ができるずらになあ」村人たちは、仕事のあいまに、こしをさすりながら、うらめしそうに湖を見つめていた。そんな村人のひどいくらしぶりを悲しそうに見つめていた、さい竜は「なんとかして、広い土地をつくってやりたい」と白りゅう王に相談し、その知恵をかりた。泉小太郎は、はちぶせ山のふもと、中山のうぶが坂で生まれ、うばによって育てられ、放光寺で成人した。

## 泉小太郎　３
![泉小太郎　３の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0006.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

小太郎はふしぎな男の子で、池の中を魚のようにおよぎまくったり、大きな石をかるがると持ち上げて、みんなをおどろかせた。おばばの心配はひととおりではなかったが、近所の友だちとなかよく、たくましく育ってほしいと願っていた。元気よく遊びとおした小太郎も、夜になると、母親のいないことがさびしく思われた。ある日「おめえのおっかあは、おめえをすてて、どっかへ行っちまったぞ」と、ガキだいしょうからいじめられた小太郎は、矢のように家へとびかえった。

## 泉小太郎　４
![泉小太郎　４の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0007.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「なあ、おばば、おらのおっかあは、どこにいるだ？、おら、おっかあに会いてえ」小太郎はおばばのうでにしがみついた。「おっかあのことか・・・小太郎、ゆるしておくれ。おまえがおっかあに会いたい気持ちはよくわかる。このおばばもせつねえ。だがな、わけあって、今はおっかあに会えねえ。お前がもう少し大きくなって、仕事ができるようになったら、きっと会わしてやる。その日までがまんして、まってておくれ」おばばは、心を鬼にして、小太郎に言って聞かせた。小太郎はがっくりと肩をおとして、おばばから手をはなした。

## 泉小太郎　５
![泉小太郎　５の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0008.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「やあ、小太郎。まだこどもだっつうに、おばばの手伝いか。えらいなあ」小太郎が、丸太で、畑の中の石をこじおこしていると、となりのおじが、感心して声をかけた。「ああ、おら、きょうからおばばの手伝いだ。あそんでばかりいちゃいけんでね」「そうか。感心、感心。おばばもうれしいずら。なにしろ働かなきゃ、みんなで生きていけんでなあ。それにしても小太郎は力持ちだなあ。そんねにでっけえ石を軽々と持ち上げて・・・」

## 泉小太郎　６
![泉小太郎　６の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0009.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

となりのおじは、びっくりたまげて、小太郎の仕事ぶりを見ていた。それから、いくたびか年があらたまり、小太郎はたくましい若者になった。「おら、これからケヤキのおじのところへ手伝いに行ってくる」小太郎は、村から少し登った山ぎわに住んでいるケヤキのおじのところへ、おばばの作ったきびだんごを持ってでかけた。「お前は村中の仕事を手伝ってくれるで、みんな大助かりだ。なにしろ力があって、人の十倍も、二十倍もの仕事ができるでなあ」おじは小太郎の仕事ぶりをほめながら、石の上に腰をおろした。「おら、畑の仕事なんかなんともねえが、どこの畑に行っても、石ころだらけで、土なんかろくにねえ、ふんとにもっと広い土地がほしいだよ」小太郎もおじのそばにきて、めずらしくぐちをこぼした。二人のすわってい

## 泉小太郎　７
![泉小太郎　７の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0010.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

る目の前にはキラキラと光る湖が広がっていた。「あの湖の水を流して、広い土地ができたらなあ」小太郎のぐちを聞いたおじは、ここぞとばかりに、小太郎の気持ちをたしかめた。「おじ、おらも前から考えていたことだ。どうしたら、あの水を流して広い土地ができるかって・・・」「そうか、小太郎、うれしいなあ。今お前さんが言ったことは。たくましい力と、すぐれた智恵をもっている小太郎なら、きっとできる」おじの言葉の中には

## 泉小太郎　８
![泉小太郎　８の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0011.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「小太郎、村人のために広い土地をつくってくれよ」という願いがこめられていた。「ようし、おらやってみせる。きっとだ」小太郎は目をかがやかせながら、自分にきっぱりと言い聞かせ、湖をにらみつけた。小太郎の気持ちを確かめたケヤキのおじは、あくる朝、おばばの家の戸をたたいた。「おばば、小太郎に母親のことを話す日がとうとうやってきたぞ。おばばのおかげで、小太郎がこんねにたくましい若者になったでなあ」おじは、おばばの手をにぎりながら、おばばの横にすわっている小太郎に目をやった。

## 泉小太郎　9
![泉小太郎　9の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0012.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「小太郎、今はじめてお前に明かすが、お前の父は白りゅう王、母は諏訪大明神がすがたを変えたさい竜だ。だから小太郎は、神の子としてこの世に生まれた。だがお前の母親は、お前が生まれた時、わしとおばばをよんで、この子が若者になるまで、人の子として、村人といっしょに育ててもらいたい。そうすれば村人の苦しみがわかり、わたしといっしょに、湖の水を流して、広い土地を作る勇気がわいてくると思う。それまでわたしは、下田のおいり沢でまっております、そう言って湖に身をかくしたのだ」

## 泉小太郎　10
![泉小太郎　10の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0013.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

おじの話をじっと聞いていた小太郎は、息をのみ、目を白黒させながら、二人の顔をかわるがわる見つめた。「小太郎は、かしこくてたくましいから、おじの気持ちも、おばばの気持ちもわかってくれるなあ」おばばは小太郎に向かってはっきりと言った。「おじとおばば、今までありがとう。広い土地を作ることは、おらの夢だった。おら、すぐにでもおっかあに会いに行く」小太郎は、えりを正して、二人の前に両手をついた。小太郎の頭の中は「よし、やるぞう」という喜びの気持ちで、はちきれそうだった。あくる日、小太郎は、おばばの作ったきびだんごを持って、おいり沢へといそいだ。

## 泉小太郎　11
![泉小太郎　11の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0014.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「こんねに広い湖のどこにおっかさんは住んでいるずらか？」湖は、太陽の光をうけて、静かに波うっていた。「おっかさーん。・・・おっかさーん」小太郎はためらいながら、母を呼んだ。それは口から出たはじめての母をよぶ声だった。なんども母をよび続け、つかれた小太郎が、近くの岩にもたれかかった時だった。とつぜん目の前の水が、大きくゆれ動き、竜がすがたをあわらした。「あっ！」びっくりした小太郎は思わず岩のかげへ身をかくした。「小太郎、おっかさんは、お前が来るのをまっていました。よく大きく、たくましく育っておくれだね。おっかさんはうれしくて、うみの中で泣いていました」

## 泉小太郎　12
![泉小太郎　12の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0015.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

さい竜は大つぶのなみだを湖の上におとした。「それじゃ、ふんとにおらのおっかさんかえ？」小太郎の声はふるえていた。「そうだよ。お前のことは、ケヤキのおじやおばばから聞いておくれだね」「うん。聞いたよ」「では、かくごはできているね。お前はおっかさんといっしょに、村人のために、湖の水を流して、広い土地を作るために生まれてきたんだよ」「わかっているよ、おっかさん」

## 泉小太郎　13
![泉小太郎　13の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0016.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

それじゃあ村へもどって、ケヤキのおじやおばば、それからおせわになった村人たちに、お前の決心を伝え、おっかさんのいるここへ帰ってきておくれ」さい竜の言葉にうなずいた小太郎は、目をかがやかせ、きしべを山にむかって走り出した。小太郎が村へもどると、ケヤキのおじとおばばは、村人を広場へあつめた。「村のしゅう、喜んでおくれ。神の子として生まれた小太郎が知恵と勇気とあたたかみのある、たくましい若者に育ってくれた。みなさんのおかげだ、ありがとう。その小太郎がいよいよ千人力の力をもっているおっかさん竜と、あの湖を切りひらいて、広い土地をつくってくれることになった。これはずうっと前からの村人のねがいであった」ケヤキのおじは、高台にのぼって、村人の顔を見わたしながら

## 泉小太郎　14
![泉小太郎　14の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0017.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

喜びの声をはりあげた。おじにかわって、小太郎が高台にのぼった。「みなさん、小さい時からたいへんおせわになりました。あの湖を切りひらいて広い土地を作ることは、子どものころからの夢でした。みなさんのために、母竜と力を合わせて、きっと広い土地を作ってみせます」小太郎が力強く、村人にむかってよびかけると「小太郎、たのむぞ」という声がどっとおこり、近くの山々にこだましていった。

## 泉小太郎　15
![泉小太郎　15の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0018.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

おばばは、めがしらをおさえながら、村人のむれからそうっとはなれていった。村人に別れをつげた小太郎が、あくる日、ふたたびおいり沢に走りつくと、さい竜はすぐに湖から首をもたげて、小太郎をむかえた。「小太郎、よく早くもどってきておくれだね。さあ、これからは、おっかさんといっしょだよ」「よしきた。おら村人のためなら、どんなことでもやるよ。おっかさん、そらいくよ」小太郎はかけ声もろとも、待っていたさい竜の背中にとびのった。「小太郎、うみのまわりの岩はかたくて、くだくのは大変だけど、これからおっかさんの知っている、北の方のもろい岩のところにいって、ありったけぶつかってみるからね。かくごはいいね」

## 泉小太郎　16
![泉小太郎　16の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0019.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「わかったよ、おっかさん。おらもおっかさんの子だ。岩がくだけ、水が流れるまで、へこたれるもんか」小太郎は、さい竜の背中で元気よく答えた。小太郎を背にしたさい竜は、もろい岩の前まで来ると「どうかこの岩が早くくだけ、広い土地が生まれますように」と言っていのり、尾を高々と空にむけてふりあげた。すると、たちまち

## 泉小太郎　17
![泉小太郎　17の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0020.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

大空に黒雲がわきあがり、雷雨となって空いっぱいに、鳴りひびいた。「小太郎、さあ、いくよ」「よしきた、おっかあ」村人のところまで、とどくような大きなかけ声で、さい竜と小太郎は、あれくるうあらしの中を、あらんかぎりの力をこめて、岩にぶつかっていった。それからいく日も、いく日も、岩をくだくはげしい音が、まわりの山々に鳴りひびいた。やがて、傷ついたさい竜の体から流れ出た血が、湖の水を赤くそめはじめた朝のことだった。「おっかさん、岩が動きだしたよ。岩が、岩が、ほら、おっかさんの目の前の岩が、おっかさーん」小太郎は、さい竜の背中で足をふんばりながら、喜びの声をはりあげた。

## 泉小太郎　18
![泉小太郎　18の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0021.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「ほんとかえ、小太郎、おっかさんは目をいためて、何も見えなくなったけど、もうひとふんばりだね。さあ、これからが、お前の出番だよ、目の見えなくなったおっかさんの体が、うまく岩にぶっつかれるよう、しっかりかじをとっておくれ」「よしきた、おっかさん。いいね、そのまま力をこめて、まっすぐ進んでおくれ」さい竜が、いきおいよく、さいごの力をふりしぼり「ガーン」と岩にむかって、体ごとぶつかっていくと、岩は山鳴りとなってくずれ、そこから湖の水は、滝のように流れ出した。「おっかさーん」「小太郎やーい」

## 泉小太郎　19
![泉小太郎　19の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0022.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

小太郎とさい竜は、喜びの声をはりあげながら、ふき流れるだく流といっしょに流されていった。「小太郎とさい竜のおかげで、広い土地がうまれたぞう」村人は、大喜びで土地をたがやし、そこにあわや、ひえのタネをまいた。「小太郎はどうしているか。おら、小太郎に会いてえ」広い土地が生まれて、いく日かすぎたあるばん、おおぜいの村人は、広場に集まった。空には星がいちめんに輝いていた。「あっ！あの星がきらきらと光り出した。そばの小さな星も光り出した」北の空を見ていた男の子がとつぜん、さけんだ。村人はいっせいに北の空をあおいだ。「二つの星は、小太郎とさい竜だ」

## 泉小太郎　20
![泉小太郎　20の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0023.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「そうだ、そうだ」「小太郎とさい竜は、星になっておらたちを見ている」「小太郎やあーい、さい竜やあーい」村人が大声でよびかけると、二つの星は、まるで、村人に話しかけるように、ピカピカとまばたきはじめた。小太郎とさい竜は、天の神さまにみちびかれて、竜座となり、今も世の中の人たち見守りながら、北の空に輝いている。

## ねずみ穴　１
![ねずみ穴　１の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0024.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

ねずみ穴むかし、埴原の里に一人の老人が住んでいました。老人はもともと、この村の人ではなかったので、畑もわずかばかりしかありません。それでいつも腹をすかせていました。「どうか、このわしを使っておくんなさんし」しかし村人はただ、「あんな老いぼれいんきょになにができるか」と笑うだけで、相手にしませんでした。「おらをやとってくれる人が一人ぐれえいても、よさそうなもんだが」

## ねずみ穴　2
![ねずみ穴　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0025.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

老人はしかたなく、食べ物を求めて、山に入り、かっこうな、ほら穴を見つけてそこに住むことにしました。山に来てみると、木の実や山いもなどがあって、どうにか食べていくことができました。老人は一人ぐらしがさびしかったので、動物たちをかわいがりました。中でも自分がねずみ年だったので、ねずみへのかわいがりがたは、大変なものでした。

## ねずみ穴　3
![ねずみ穴　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0026.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

ある日のことでした。老人がほら穴の中でひるねをしていると、一匹のねずみが、老人のまわりをとび歩いていました。「これこれ、おら、せっかくいい気持でねているに、もう少し静かにしてくりや」そういって、老人が目をこすりながらねずみを追うと、なんとねずみは、ぴかぴかの小判(こばん)をくわえていました。「やや、小判だ！これはなんとしたことだ！」

## ねずみ穴　4
![ねずみ穴　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0027.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

老人はしばらくの間、うろたえていましたが、やがて気を取り直して、ねずみの頭をなで、山いもをどっさり食べさせてやりました。次の日から、どこからともなく小判をくわえてきては、穴の中で、それをもてあそぶねずみが、二匹、三匹と、だんだんふえていきました。ふしぎに思った老人が、こっそりねずみのあとをつけていくと、ねずみたちは、村の金持ちのくらに入っていくのでした。老人はにやっとすると、そのまま穴へ帰ってきました。さて老人は、はじめ「あんなケチな金なら」と思っていましたが、ザルにお金がたまりだすと、

## ねずみ穴　5
![ねずみ穴　5の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0028.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「よおし、この金を村人たちにかしてやって・・・それから・・・」としだいによくない考えを持つようになりました。老人の金かしのことを知った村人たちは月に五人、六人とほら穴へやってくるようになりました。「ありがてえことだ。これでおっかあの病気を治すことができる」前に老人のしごとのおねがいをことわった村人たちは、ありがたがって、山を下っていきました。老人は、金がたまりだすと、自分のねどこを外へうつしました。しかし、お金がふえていったのも、そう長くは続きませんでした。村人の中で、借りた金や、りそくを返さない人が多くなってきたからです。そこで老人はむだにえさばかり食べるねずみをどんどん、ころしていきました。

## ねずみ穴　6
![ねずみ穴　6の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0029.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「おまえさんにいくら言われても、ねえ金は、はらえねえよ。おらたちゃ、あの金がどこからはこばれてきたか、ちゃんと知っているぞ」「なにをこの、ひゃくしょうどもめが。借りるとき、おめえさまたち、おらになんと言ったか忘れたか。あの金はおらのものだ。今に土地もろともふんだくってやるからみてろ」老人は村人たちをにらみつけると、さっさと山道へ向かって歩きだしました。いきりたった老人が、山道にさしかかったときでした。とつぜん、岩のかげら、何十匹ものねずみがとびだしてきて、手足に

## ねずみ穴　7
![ねずみ穴　7の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0030.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

からみつきました。おどろいた老人は、足でけったり、ぼうをひろってたたいたりしましたが、とうていねずみたちを、おいはらうことはできません。「こら、ねずみたち、助けてくれや、お前たちのおんをわすれたおらが悪かった。おら、もう、お前たちをころしたりなんかしねえ。おら、心を入れかえて、お前たちを、うんとだいじにしてやるでどうか、ゆるしてくりぁ」そういって、五、六歩あとずさりしたときです。足をふみはずした老人は、深いたにぞこへ、ころがりおちていきました。それからのち、老人はとうとうほら穴には、もどってきませんでした。村人は、ほら穴に残っていた金をあつめ、ねずみたちの供養(くよう)をしたということです。

## 千巻清水　１
![千巻清水　１の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0031.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

千巻せんかん清水しみずむかし、埴原(はいばら)の牧がさかんだったころ、いく日も雨がふらなくて、たいそうこまったことがありました。「こんな年ぁ、めったにねえ。おめえさまのとこのあの深い井戸もとうとう、かれてしまったでなあ。それじゃあ、おらとこの井戸が、ひあがったのもむりゃねえ」「これじゃあ、人間様が死んでしまうわ」二人の村人は、部落から半里(約二キロ)もはなれた谷川まできていました。

## 千巻清水　2
![千巻清水　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0032.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「谷川の水だって、こういつまでも、ふらなきゃ今にかれてしまうずら」いつもの年なら、音をたてて流れている谷川の水もわずかに石の下をはえずって、ちょろちょろと流れているだけでした。それを手ですくっては、手おけに少しずつ入れるので、手間のかかることといったらありません。それからこげつくような太陽の下をとことこさげて帰るのですから、家へつくころは、ぬるま湯になってしまいます。「どうか、神さま、仏さま、雨をふらしておくんなさんし」村人は、くる日もくる日も、空をあおいで両手をあわせました。しかし雨はふるどころか、太陽はまるで油でもそそいだように、ぎらぎらと光っていました。

## 千巻清水　3
![千巻清水　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0033.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

ある日の夕方のことでした。部落の長老のおふれで、村人たちはいつもの広場へつめかけました。広場には火が赤々ともえ、まわりにはおおぜいの村人たちががやがやとさわいでいました。「村のしゅう」そういって、暗がりの中から出てきたのは、村いちばんの物知りといわれている長老でした。

## 千巻清水　4
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【ページ内のテキスト情報】

「こんなに長いこと、日でりが続いたことは、わしが生まれてからはもちろんのこと、その前のきろくにもないことじゃ。わしも、ねずに考えたことだが、われわれは生(せい)をうけてからのよからぬ行いにたいする神のいかりを考え、こよいはすべてざんげし、神におゆるしをこうように、しようではござらぬか」聞いていた村人はすぐに長老にさんせいしました。「わしのいったことが、わかってくれてうれしい。それではさっそく、ざんげしてもらうことにしよう。みんな、かくさずもうしあげれば、きっと、天の神も、われらのねがいを聞き入れてくれるであろう。さあ、はじめてもらいたい」長老は村人をみわたし、それからゆっくりとすわりました。「おら、はずかしいけど・・・」

## 千巻清水　5
![千巻清水　5の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0035.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

長老のすぐ右にいた、長十さが頭をかきながら立ち上がりました。「おら、わけえころ、山へいった帰りに、はらがへっちまって、となりのうちの柿を二つ食っちまった」といって、まずざんげの口火をきると、次から次へとじゅんじゅんに自分のつみをはきだしました。つみといっても、悪いことの知らない村人たちのことです。どれもこれもたわいのないものでした。それでもみんな終わったのは、もう朝方でしたが、その日も雨がふるどころか、日でりは、ますますひどくなるばかりでした。

## 千巻清水　6
![千巻清水　6の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0036.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「ああ、おら、いのちのあるうちに、もういちど、つめてえ井戸水をガブガブのんで、死にてぇもんだ」村人の願いは、みんな同じでした。そのころ、しょこくをまわり、人々に教えをさずけていたお坊さんが、この村をお通りになりました「お坊様、どうか、日でりでこまっているわしらをお助け下さい。わしらは今までの悪いことも、ざんげしましたし、村のものとしてできることは、すべて手をつくしました。これ以上はお坊様におすがりするよりほかに方法はありません」村人は土に頭をなすりつけておねがいしました。

## 千巻清水　7
![千巻清水　7の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0037.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「ほうー。ざんげとな・・・ざんげなどとは、よほどのことがなくてはできぬもの。あなたがたは、それほどまでになされたのなら、わしとて仏につかえるからだ、お力をおかししましょう」坊さんはいそいで、ごまだんを作らせました。そして「わたしはこれから七日の間、千巻(せんかん)のおきょうをとなえて、おいのりしましょう。どうぞ満願(まんがん)の七日目の朝、わたしの後ろにあつまって下さい」

## 千巻清水　8
![千巻清水　8の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0038.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

そういうと、いっしんにおきょうを、となえ始めました。いよいよ満願の朝がきました。村人たちは、ひとり残らずいのる気持ちで、坊さんの後ろにあつまり、自然に両手を合わせましたちょうど宮入(みやいり)山から朝日が出始め、千巻のおきょうが終わったときでした。ふしぎにも坊さんのすわっていたすぐ前から、玉のような清水がふきだしました。「わあ水だ！水だ！」

## 千巻清水　9
![千巻清水　9の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0039.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「ありがたい水だ！」「ありがとう、旅の坊さま！」村人はふきだす清水をすくってはのみ、坊さまにお礼をいいました。「ざんげなどと、ふつうの人間にはできないこと。お前さま方の心が、神につうじたのじゃ」坊さんは、そうつぶやきながら、すがたを消しました。このように、旅の坊さんによって、ふきだした清水は「千巻清水」とよばれ、今もこの地方に、こんこんとわき出ているということです。

## 生妻の池　1
![生妻の池　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0040.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

生妻（しょうづま）の池むかし、中山の里に一人の若者が、年とった母親といっしょにすんでいました。若者は、働き者で、朝早くから夕方おそくまで、こんきよく働き、そのうえ、村一番の男前だったので、村のむすめたちのあこがれのまとでした。「あんな根気のいい、働き者のところへよめにいって、いっしょに、畑仕事をやってみたいものだ」

## 生妻の池　2
![生妻の池　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0041.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「あんな若者となら、たとえ、ひと晩だけでも話をしたいものだ」村のむすめたちは、よると、さわると、若者の話でもちきりでした。ある晩の酉(とり)のこく、(今の十時ころ)のことでした。あまりの月の明るさに、若者は、明かりしょうじを開けて、外のけしきを見ていますと、「もしもし、もしもし」と若者をよぶむすめの声が、桜の木のかげから、聞こえてきました。「どなたさまだね、こんなにおそがけに。外はまだつめてえに、こっちへきて休んでくだせえ」「ありがとうございます。それでは、お言葉にあまえて、あなたさまのおそばによらせていただきます」

## 生妻の池　3
![生妻の池　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0042.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

そういって、木のかげからでてきたむすめは、今までこの村で見たこともないような、きれいなむすめさんでした。「あんたさんは、この辺では見かけたことのねえ、おなごさんのようだが、なんの用事で、こんなにおそくに」若者は、ふしぎに思ってむすめに聞きました。「わたしは、このむこうに住んでいる、まずしい家のむすめでございます。あなたさまは、私たち、村むすめのあこがれの人です。ほかのむすめたちは、あなたさまの男前におそれをなして、おたずねすることもちゅうちょしていますが、わたしはおそれずに、あなたさまのおそばに、まいりました」

## 生妻の池　4
![生妻の池　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0043.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

若者は、むすめの美しさと、言葉のていねいさに、少し、とまどっていましたが、やがて気をとりなおして、答えました。「じょうだん言っちゃいけねえや。おら、そんな、いい男じゃねえ。ただ、おら働くことが好きで、いっしょうけんめい、せい出しているだけだ」「いえいえ、あなたさまは、男の中の男。村一番の男前でございます。私はあなたさまの、そういうお心が好きです。これからもまいばん、このじこくに、お会いしたいのですが、私のねがいを聞き入れてくださるでしょうか」「うん、おら、昼間はいそがしいけど、夜はひまだで、いつでもきてくんろ」

## 生妻の池　5
![生妻の池　5の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0044.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

若者が、そういうと、むすめはていねいに頭を下げ、月の明りの中へ消えていきました。そのあくる晩から、むすめは酉のこくになると、きまって若者の家に現れ、話をしては、かえるようになりました。若者は、何回も日をかさねて会っているうちに、だんだんとむすめにひかれていきました。それからのち、若者は、このむすめのいどころや、名前を聞こうとしましたが、むすめは「わたしは名もない家のむすめでございます。どうぞ、これ以上、お聞きにならないで下さいまし」と答えるだけでした。それから、またいく日か過ぎたある夜のことでした。

## 生妻の池　6
![生妻の池　6の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0045.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

その夜は夕方からあらしがおそい、酉のこくに近づくにつれ、もうれつないきおいで、屋根がふきとぶかと思われる強さになりました。「いくらなんでも、今夜のあらしでは、とうていやってはこれまい。さびしい気がするなあ」若者は家がたおれないように、ほうぼうへ、つっかいぼうをかいながらも、むすめのことを、考え考え、あらしのやむのをまっていました。やがて、酉のこくと思われるころでした。

## 生妻の池　7
![生妻の池　7の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0046.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

雨戸をはげしくたたく者がありました。開けると、むすめが立っていました。若者は夢かとばかりおどろき、とうとう、その晩は夜のふけるのも忘れて、語りました。いよいよむすめが帰ろうとするとき、若者はむすめのすそに、糸をつけました。やがて、あらしがやんで、若者がつけておいた糸をたどっていくと、おどろいたことに糸は池の中に入っていきました。若者は、その時はじめてむすめが、竜神(りゅうじん)の化身(けしん)であることを知りました。その日から、むすめが若者をおとずれることはありませんでした。

## 観音様とおもち　1
![観音様とおもち　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0047.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

観音様とおもちむかし、牛伏寺の近くに農民ふうふがすんでいました。二人はわずかばかり田畑をたがやし、まずしいながら楽しい毎日をおくっていました。ところが、いっしょうけんめい作っている田んぼに、毎年ふしぎなことがおこりました。それは秋になって、イネがこがね色に実るころになると、きまってモチイネだけがだれ

## 観音様とおもち　2
![観音様とおもち　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0048.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

かの手によって、かりとられてしまうのです。おかしなことがあったもんだ。クマやイノシシが食いあらすちゅうことならわかるが、モチイネばっかし、かりとるってこたあ、おら、どうしても、ふにおちねえ」ふしぎに思った農民ふうふは、イネが実って、かりとりの時期をむかえると、相談して見はりをすることにしました。見はりを始めてから、三日目の夜中のことでした。はちぶせ山の上から出た月が、静かないな田をてらしはじめると、どこともなく、人のすがたがあらわれ、イネをかりだしました。

## 観音様とおもち　3
![観音様とおもち　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0049.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「さあ、今だ」ふうふは人のすがたを追って追いかけましたが、観音堂(かんのんどう)の近くまでくると、そのすがたを見うしなってしまいました。「おかしいな。たしかに、ここまで見えたが」「ふんとにふしぎだね。かくれるとこだってねえし。いったい、どこへ消えちまっつら？」二人とも観音堂のまわりをまわりながら、気味わるく思いました。「おや、とうちゃん。観音様のきてらっしゃる、布きれを見ましょ。イネの穂がいっぱいついてるに」「ふんとだ・・・そうだ、わかった。あはははは」

## 観音様とおもち　4
![観音様とおもち　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0050.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

農民ふうふは、朝の来るのをまちきれずに、おもちをつき、観音様にさしあげました。それからのちも農民ふうふは、おもちをつくと、まず観音様におそなえしました。いまでも、やくよけの日、おもちをそなえるのは、そのためだといわれています。

## きつね穴　1
![きつね穴　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0051.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

きつね穴むかし、中山の里に、茂助(もすけ)という若者が、母親といっしょにくらしていました。二人は、その日ぐらしの貧しいくらしでしたが、病気もなく、しあわせでした。ところがある秋のこと、ちょっとしたかぜがもとで、母親は床についてしまいました。親おもいの茂助は夜もろくにねむらずに、かんびょうしましたが、十日たち、二十日たっても母親の病気は快方(かいほう)にむかいませんでした。

## きつね穴　2
![きつね穴　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0052.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

そんなある日、村に旅の行者がやってきました。なんでも祈とうでやまいをなおすというはなしです。茂助は、飛びつくような気持ちで行者を家にまねき、さっそくみてもらいました。行者は、じゅずをもみながら、、長いこと念仏をとなえていましたが、やがて、頭をふって茂助の顔をみました。「のう、若い方、わしの手にはおえんが、きつね穴のご老人なら、きっと力になってもらえるじゃろな」「あのきつね穴？」

## きつね穴　3
![きつね穴　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0053.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「そうじゃ、わしも旅のとちゅうで、うわさを耳にしたのじゃが、なかなかの、ご仁(じん)らしいでな」行者はそういうと、ひとりで感じいったようにうなずきました。きつね穴といえば、中山の里から二里(八キロ)も遠い山の奥です。茂助は、つぎの朝早く、「朝草にいってくるでね」と言い残して行者から教わったとおり、きつね穴への道をのぼっていきました。やがて「はて、あの岩だったろうか」茂助が、ひときわ目立った岩のあたりに目をやっていると、その上に人かげがあらわれました。白く長いひげをはやした老人です。

## きつね穴　4
![きつね穴　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0054.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「おお、中山の茂助だな。たぶんくるじゃろうとおもうて、むかえに出てみたところじゃ。さあ、このつえをやるで、それをたよりに登ってまいれ」といって、茂助につえをなげてやりました。老人の声はりんとして、あたりにひびきました。茂助はアカザのつえをついてのぼり、老人にみちびかれていくと、そこには大きな岩穴があいていました。「さあ、ここがわしの住まいじゃ、えんりょは無用、入った」

## きつね穴　5
![きつね穴　5の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0055.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

老人は穴の中へ茂助を入れると、さっそく、はなしを切り出しました。「なあ、お前さん、おっかさんのやまいを治すには、なにわの大石屋(だいこくや)へ行って、にんじんのくすりを手に入れることじゃ。わしの手紙をもっていけば、きっと分けてくれるはずじゃ」「だが、おら、くすり代も・・・」「よしよし、何も心配はない。このわしにまかせておくがいい」老人は何もかも、のみこんでいるようすでした。「ありがとうございます」茂助は、地面にひたいのつくほど、頭を下げました。頭を上げると、もはや老人の姿はなく、茂助の前には、一通の手紙と金袋(かねぶくろ)がおいてありました。

## きつね穴　6
![きつね穴　6の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0056.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

茂助は、埴原の牧から、奈良のみかどに奉納(ほうのう)する貢馬(みつぎうま)の一行といっしょに旅をし、奈良からなんばにたどりつくことができました。大石屋といえば、なんばでは一、二をあらそう大きなくすり屋です。ですから、いなか者の茂助にも、すぐにたずね歩くことができました。茂助が、声をかけるとでてきた主人は、どことなく、きつね穴の主人に似ているのです。茂助が、老人からの手紙を主人にわたすと、主人はさっそく開いて、読みながら、

## きつね穴　7
![きつね穴　7の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0057.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「遠路(えんろ)ごくろうさまでした。では、ご注文のおくすりをおわたししますよ。さっそくかえって、母上にのませてください。十日もすれば、治りましょう」といって、茂助ににんじんのくすりをわたしてくれました。茂助はおがむようにして、くすりを受け取ると、大事にふところに入れ、帰りの道をいそぎました。「おっかあ、今けえってきたぞ」なんばからの道を、とぶようにかけてきた茂助は、母親の寝ている部屋の戸を、おそるおそる開けてみました。「ご苦労だったなあ茂助、おら、しんぺいで、まいばん、ろくにねむれなかったぞやい」

## きつね穴　8
![きつね穴　8の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0058.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

そういうと、母親は手を出して、茂助の手をにぎりました。「おらも同じだ、おら、どれだけ、おっかあのこと心配したかしんねえ・・・なあ、おっかあ、おらが家を出るときよりも、ずっと太ったようだが、いったいどうやって食べていただい？」茂助は、母親の手をなぜながらいいました。「それがふしぎなことにな。おめえが旅立ってから、毎日、まくらもとへ、おぜんが運ばれてきただよ」母親はそういって、なみだを流しました。「よかったなあ、おっかあ」茂助は、これはきっと、きつね穴の老人にちがいないと思いました。

## きつね穴　9
![きつね穴　9の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0059.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

やがて、母親の病気もすっかりよくなり、二人は前よりもいっそうよく働いて、借りたお金は利息までもつけて返しました。その後、お金や金物がなくてこまっている人たちは、きつね穴にいって、のぞみのものをかりうけるようになりました。しかし、村人の中で、たったひとり、借りたものを返さない者がいたため、それっきり、きつね穴はからっぽになり、二度と老人はすがたをあらわせませんでした。村人たちは、かつて村人に助けられたきつねが、老人にすがたをかえて、村のこまった人たちを救ったのだとうわさをしたということです。

## お八日もち　1
![お八日もち　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0060.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

お八日もちむかし、十月になると、日本中の神様たちが、いずもの国にあつまりました。十二月八日の朝、その年のるすばんにあたっていた道祖神さまのところへ、いずも行きの、おくれた疫病(えきびょう)の神がやってきて、「わたしはこれから、いずもへ出かけるところです。来年、二月八日にもどって

## お八日もち　2
![お八日もち　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0061.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

くるまで、この大事なちょうめんをあずかってくださらんか。けっして中を開かないように」と言って、道祖神さまに一さつのちょうめんをわたし、疫病の神はいずもの国へ旅立っていきました。「けっして中を見てはいけない」と疫病の神はねんをおしましたが、悪い神さまなので、道祖神さまは中をひらいて見てしまいました。すると『どこの家では三月にかじ、山の上の家は四月に疫病・・・』など、悪いことがちょうめんいっぱいに書いてありました。「これはたいへんだ。こんな悪いちょうめんを二月八日にわたせるものか」おこった道祖神さまは、一月十四日の三九郎のばんに、火にくべてやいてしまいました。

## お八日もち　3
![お八日もち　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0062.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

道祖神さまは、みんながしあわせになることをねがう、神さまなので「ああ、よかった」と言って、むねをなでおろしました。いよいよ、二月八日、疫病の神がもどってくる日です。朝早く、道祖神さまかられんらくをうけた村人たちは、かどさきで、トウガラシ、ネギなどをどんどんたいて、いぶし、疫病神が村の中に入れないようにしました。疫病神は、ゴホンゴホンとせきをしながら、どこかへいってしまいました。「道祖神さま、ありがとうございました。おかげで災なんにあわなくてすみます」

## お八日もち　4
![お八日もち　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0063.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

村人は大よろこびで、さっそくおもちをついて、二月八日に五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祝って、おもちをつき、道祖神さまにおそなえしました。疫病から村人をまもってくれたおれいのためだといわれています。

## だいだらぼっち　1
![だいだらぼっち　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0064.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

―紙芝居―だいだらぼっち(一)むかし、むかし、だいだらぼっちという大男が、松本平の東の方の山にすんでいました。背は頭が雲の上にでるほど高く、足は太い杉の木を五十本もゆわえたほどもありました。

## だいだらぼっち　2
![だいだらぼっち　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0065.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（二）だいだらぼっちは、山を作るのがとくいでした。学校の庭ほどもある大きな手のひらで土をつかんでは、ひょいと背中の土入れのしょいこにつめ、クマやイノシシやシカなどの動物をふみつぶさないように、のっしのっしと歩いては、あちこちの山を作っていました。

## だいだらぼっち　3
![だいだらぼっち　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0066.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（三）ある日、だいだらぼっちが、はちぶせ山をまくらにひるねしていると、西山の方から、けんかをしているような大きな声が聞こえてきました。「だれだやあ、おらせっかくいい気持でひるねをしておっただに」だいだらぼっちは大きなあくびをして、それから大きな息を「はあー」とはきました。

## だいだらぼっち　4
![だいだらぼっち　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0067.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（四）すると、近くの山を登ろうとしていたクマたちが、だいだらぼっちのはいた息にあおられて、ごろりごろりと、谷底へころがり落ちていきました。

## だいだらぼっち　5
![だいだらぼっち　5の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0068.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（五）それを見ていただいだらぼっちは、「やあクマたちよ、悪いことをしたなあ」と、すまなそうな顔をしました。そして、山からころがり落ちたクマたちをそうっとひろって、手のひらにのせ、山の上にもどしてやりました。

## だいだらぼっち　6
![だいだらぼっち　6の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0069.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（六）「それにしても、さっきの大声はなんずらか？」だいだらっぼっちは、立ち上がり、雲の上から西山の様子をうかがいました。すると、「おらが高い」「いや、おれの方がもっと高い」とまだあらそっている大声でした。「おらが作った山たちが、高いのをじまんしておって、山というものは、高くなればなるほど、品がなけりゃいかん」だいだらぼっちは、悲しそうな顔をして、雲の中へ顔をかくしました

## だいだらぼっち　7
![だいだらぼっち　7の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0070.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（七）それからだいだらぼっちは、ゆっくりとこしをおろしました。だいだらぼっちがすわっているまわりには、山を赤くそめたツツジの花がきれいに咲いていました。

## だいだらぼっち　8
![だいだらぼっち　8の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0071.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

㈧）「ああ、おらは今まで、高い山ばっかり作ってきたが、これからは花がいっぱい咲いていて、動物たちが楽しんで遊べる山さ作るだ」だいだらぼっちはそう言って、今まで見たことがないようないい顔をしました。

## だいだらぼっち　9
![だいだらぼっち　9の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0072.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（九）それからだいだらぼっちは、しょいこに土をいっぱいつめ、ちょいちょいと土をこぼしながら、あちらこちらへ低い山を作りました。

## だいだらぼっち　10
![だいだらぼっち　10の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0073.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（十）「こういう山が、おらが作りたかった山だ」ある日、作ったばかりの、なだらかな山にこしをかけて、「ところで、この山に名前をつけたいが・・」だいだらぼっちは、うでを組みながら考えました。

## だいだらぼっち　11
![だいだらぼっち　11の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0074.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（十一）「そうだ、おわんをかぶせたような山だで、おわん山と名づけるか」そう言って、だいだらぼっちは、どっかりとこしをおろし「ああ、おらが今まで作りたかったいい山だ。おら、これからこの山に住むとするか」と言って、にこりとしました。それから、ころりとねころんで、青い空を見上げました。

## だいだらぼっち　12
![だいだらぼっち　12の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0075.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（十二）「ああ、気持ちがええなあ。こんねに広々とした青空を見るのは、ふんとにひさしぶりだあ」だいだらぼっちは、まばたきもしなんで、じっと青い空を見つめていました。

## だいだらぼっち　13
![だいだらぼっち　13の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0076.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（十三）やがて、だいだらぼっちは「そうだ」と大声をはりあげて、むっくりと立ち上がりました。その声が大きかったので、鳥たちはおどろいてとびたち、イノシシの子どもたちは、おったまげて、川の中へころがりおちました。

## だいだらぼっち　14
![だいだらぼっち　14の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0077.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（十四）やがて、二年、三年とたつうちに、おわん山は、きれいな花が、ちょうどじゅうたんをしいたように、いちめんにひろがりました。

## だいだらぼっち　15
![だいだらぼっち　15の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0078.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

た。め、花のかおりによいながら眠りましだいだらぼっちは、きれいな花でめざ（十五）

## だいだらぼっち　16
![だいだらぼっち　16の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0079.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

（十六）ある日、だいだらぼっちがねころんでいると、花の好きな小鳥や、クマやウサギたちがおわん山に集まってきました。そしてだいだらぼっちのねている腹の上で、すもうをとったり、かけっこをしたりしました。だいだらぼっちは、動物たちが腹の上で遊んでいる間、じっとして動きませんでした。

## いぼ石　1
![いぼ石　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0080.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

いぼ石むかし、中山の里に、イボでなやんでいる若者が住んでいました。若者はからだじゅうがイボだらけで、「ああ、せつねえ、どうしておらだけこんねにイボで苦しまなきゃならねえだ」男は毎日、しなの木権現(ごんげん)様をおがんでも、イボはいっこうにとれませんでした。「やあーい、イボ男、おまえのかあさん、イボ女」子どもたちは若者をみると、悪口をいってははやしたてました。

## いぼ石　2
![いぼ石　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0081.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「ああ、こんなみにくい、からだで、子どもたちにもばかにされて・・・」若者はなげきかなしみ、とうとう月の明るい晩に、家をとびだしてしまいました。月光は、はるか、山頂の、しなの木権現様をてらしていました。「しなの木権現様、おら、何もかもあきらめて、来世へ旅立ちます。来世ではイボのないからだに生まれますように、おらの願いをとくと聞いておくれ」若者はなんどもなんどもいのり、とうとう力つきて、かたわらの石によりかかってしまいました。あくる日、近所の人たちによって、石で頭をくだいた若者のなきがらが見つけられました。残された紙片には

## いぼ石　3
![いぼ石　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0082.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「イボでなやむ人たちよ、イボで泣くなかれ。おらが頭でくだいたこの石にくぼみを残し、そこに水をたくわえておくから、その水でイボをあらうべし。やがてイボはなおるであろう」と書かれてありました。今でも、埴原北反町のいぼ石には、時おり花がそなえられています。

## もの食わぬ女房　1
![もの食わぬ女房　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0083.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

もの食わぬ女房むかし、あるところに、大そうケチな男が住んでいて、いつも、めしをくわないで、よくはたらく嫁(よめ)がいないかと思っていました。ある日、むすめが、「ごはんを食べないではたらくから、嫁にしておくれ」と言ってきたので、男はよろこんで嫁にしました。むすめはめしを食わずによくはたらきましたが、米びつの米がだんだんへ

## もの食わぬ女房　2
![もの食わぬ女房　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0084.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

っていくので、てんじょううらへのぼってようすを見ていると、嫁は頭の上から米をどんどんと入れていました。男はおどろいて、すぐに嫁にひまをだすというと、嫁はオニだとみやぶられたので、男をふろおけの中にとじこめ、山おくへと登っていきました。男はおけの中からやっとにげだしましたが、オニがもどってきて追いかけてきました。男はショウブとヨモギの中にかくれて、なんをのがれました。その日が五月五日だったので、いまでもヨモギやショウブをのきにさす家やふろに入れるところがあります。

## 金鶏伝説　1
![金鶏伝説　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0085.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

金鶏伝説きんけいでんせつむかし、ホラ貝山(今の中山霊園)に繁八（しげはち）という若者が、病弱の母親といっしょにすんでおった。繁八は、毎日あせみずたらして働いたが、くらしはいっこうに良くならなかった。あるばん、母親が繁八をよんだ。「おら、今うとうととして、夢さ見ただ。ホラ貝山のてっぺんに黄金がいっぱい埋まっていてな。その上で金の鶏(にわとり)がないていた夢を。おら、いっときだったが、しあわせだったぞい」

## 金鶏伝説　2
![金鶏伝説　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0086.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「おっかあ、申しわけねえ、おら、いくら働いても、おっかあのくすりさえ買ってやれねえ、こんなせめえ、石ころだらけの畑じゃ、ろくなもんはとれねえ」「いんにゃ、おらが、病気で働けねえばっかりに、おめえにも苦労かけるなあ」「おっかあ、ふんとにすまねえ」繁八は母親のまくらもとへきて、手をついてうなだれた。あくる日、繁八はホラ貝山の頂上へのぼった。

## 金鶏伝説　3
![金鶏伝説　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0087.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

山は風もなく、とてもしずかだった。とそのとき、どこからか、「ぴよ、ぴよ」と鳥の鳴き声がかすかに繁八の耳にきこえてきた。繁八が鳴き声のする方に足をのばすと、小鳥が小枝にはさまって飛べなくなっていた。「今、助けてやるで、動くでないぞ」小枝をとりのぞいてやると、小鳥は空にむかってはばたいて飛んでいった。しばらくして繁八が腰をおろして、耳をすますと、どこからか金鶏（きんけい）のなく声がきこえてくるような気がした。繁八はしあわせだった。夢に見たという金鶏のなき声を母親といっしょに聞いているような気がした。あくる日から、また、仕事に精を出した。するとふしぎにも母親の病気はひましに良くなり、やがて親子で働けるようになった。

## 金鶏伝説　4
![金鶏伝説　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0088.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

朝日さし夕陽さす丘の上に黄金満杯漆満杯中山霊園の頂上には、たくさんの財宝が埋められていて、おだやかな日の昼さがり、今でも金鶏の鳴き声が聞こえてくるという話である。

## ちんちん塚　1
![ちんちん塚　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0089.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

ちんちん塚ある夏のこと、疫(えき)病がはやったことがあります。おおぜいの村人が、次から次へたおれていきました。「ふんとに、いつになったら、はやり病(やまい)がなくなるずらか、おらの命だって、いつなくなるかわかったもんじゃねえ。」「こんねに、べたべたにやられて、今におら村の人たちゃ、たねなしになってしまうかもしんねえ」そのころは今のように、お医者さんも、くすりもなかった時代のことです。人々は、のら仕事も手につきませんでした。

## ちんちん塚　2
![ちんちん塚　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0090.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

そのころ、ひとりの山ぶしがこの村に入りこんできました。「みなさん、どうしてこの村に、病がはやってきたか、おわかりかな、はっきり申せば、この村の人たちが今まで神、仏を信ぜず、中には神仏をけがす人さえいたからです。病人たちをすくう道は、たった一つしかありません。それは、三日間の御祈祷(ごきとう)あるのみです。三日御祈祷をすれば、かならずや、この病はたいさんすることでありましょう。しかし、それには、たくさんのお金が必要です。それを神にそなえて御祈祷すれば、きっと神は、村人をゆるしたまわり、たちまち、疫病はとまるでありましょう」

## ちんちん塚　3
![ちんちん塚　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0091.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

こまったときの神だのみです。山ぶしのいうことをすっかり信用した村人たちは、あちこち飛び歩き、ありったけの金を集めて、山ぶしの前にさしだしました。「みなさん、よくこれだけのお金を集めてくれました。この心はきっと神に通じることでありましょう。さっそく、この村の小高いところに神だなを作って下さい」村人の中からえらばれた大工(だいく)のこころえのある人たち数名は、おたがいに身を清めたあと、山の木をきりたおして、たちまちりっぱな神だなをつくりあげました。「やあやあ、これは見事でりっぱな、神だなができ上がりました。これから三日三晩、ここでいのり続けましょう。あなた方は、ご心配なくここを下って、

## ちんちん塚　4
![ちんちん塚　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0092.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

三日目の朝になったら、再びここに来て下さい。そのころは、きっと悪い病気も治っていることでありましょう」そういうと、山ぶしは、村人たちから集めたお金をそなえ、やがて静かに御祈祷をはじめました。三日目の朝が来ました。村人たちはこぞって山道をのぼり、小高い丘にやってきましたが、山ぶしのすがたはもちろん、そなえてあったお金のふくろもありません。ただ、神だなが、ぽつんと残っているだけでした。村人たちはそこではじめて、山ぶしにだまされたことがわかりました。

## ちんちん塚　5
![ちんちん塚　5の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0093.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

人々は、山ぶしをののしり、わめいてみましたが、すべてあとのまつりです。疫病はやむばかりか、いよいよひどくなってきました。こんなことがあって、間もなくのことです。どこからか、ひとりの坊さんが村にやってきました。「わたしは、この村に疫病がはやり、多くの人たちが死んでいくという話を聞き、いそいでやって来ました。わたしが悪病平癒(あくびょうへいゆ)のお念仏をとなえてしんぜましょう」坊さんはそういって、まわり歩きましたが、だれ一人信用する人はいません。

## ちんちん塚　6
![ちんちん塚　6の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0094.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「なんだと、このこじき坊主めが。疫病をなくしてしまうなんて、うめえこといいやがって、このあいだの、山ぶしの二の舞(まい)はくわねえぞ」とか、「このあいだの山ぶしはなあ、おら村から、足しねえ金しこたま集めて、そいつを持ってにげやがった。おめえさまもあいつと同じどろぼうなかまずら」と坊さんにくってかかりました。それまでじっとこらえていた坊さんも、「どろぼうよばわりされるとは、意外なこと、まったくみなさんはひどいことをおっしゃる。かりにも私は仏につかえる身です。けっしてそのようないやしい者ではございません」と、言葉を返しました。

## ちんちん塚　7
![ちんちん塚　7の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0095.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「うまいことをぬかしやがって、おまえのような悪たれに金などわたすばか者がどこにいる。とっととうせろ、えんぎでもねえ」「さてさて困った人たちだ。わたしは一銭のお金をほしいなどとはいっていません。ただ、仏の御慈悲(ごじひ)におすがりして、みなさまのお役にたちたいだけです。どうか、お祈りをさせてくださらぬか」そこへ、庄屋さんが飛びこんできました。「村のしゅう、なにか、このお坊さんが悪いことをしたというのか」「いいえ、この坊主めが、前の山ぶしと同じように、お祈りをして、疫病をおいはらってやると申すのでございます」

## ちんちん塚　8
![ちんちん塚　8の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0096.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「なるほど、それは、ありがたいことではないか。それでお坊さま、あなたは、いったいどれくらいのお金をおのぞみなのです？」「私は、お金など、一銭もほしいとは申してはおりませぬ。ただただ、村の病人たちの病気がよくなるのを祈るのみです」「なるほど、これは本物かも知れん。それにしてもあなたさまは、見上げたお方じゃ、さあ、村のしゅう、さっそく、お祈りしていただこうではないか」お坊さんは仏だんに机をすえて、香(こう)をたき、ねんじゅをサラサラともみ、一心不乱(いっしんふらん)におきょうをとなえはじめました。「ありゃ、にせものではなく、ほんとうの坊さんかもしれんなあ」「そうだとすると、おらたちゃあ、ひでえことをいってしまったものだ」村人はおたがいに、お坊さんをののしったことを深くはじました。

## ちんちん塚　9
![ちんちん塚　9の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0097.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「さて、みなのしゅう、これで、病魔退散(びょうまたいさん)の大願成就(たいがんじょうじゅ)うたがいなしじゃ、まもなく、病人は全快するであろう」三日三晩祈り続けたお坊さんは、身も心もやつれはて、言葉もたえだえでした。村人たちは、今までとはうってかわって、なにくれとなく、坊さんの世話をしました。「みなさん、この私にはなんのもてなしもいらぬ。ごらんのとおり、わたしの命は、まもなく果てることでありましょう。そこでおねがいじゃが、私を棺

## ちんちん塚　10
![ちんちん塚　10の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0098.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

(かん)に入れ、仏だんの下にうめてもらいたい。私はこの館の中で入滅(にゅうめつ)することに決めました。愚僧(ぐそう)は、この館の中で命あるかぎり、病魔退散のお祈りをとなえ、命をまっとうしたく思います。どうか、鈴の音(ね)がなっている間は生きて祈っていると思ってくだされ」村人は泣き泣き、坊さんのいうとおりにしました。それから二十一日もの間、鈴の音は続きましたが、やんだとたん、さしもの疫病はすっかり治っていました。これもみな、お坊さんが、命をすててまでもお祈りして下さったからだと、お坊さんのありがたさに泣かない者はなかったということです。

## ちんちん塚　11
![ちんちん塚　11の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0099.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

それから、村人は坊さんをねんごろにほうむり、あとに塚(つか)をつくりました。ちんちんと鈴の音がきこえていたことから、ちんちん塚とよび、今も線香(せんこう)のけむりが、たえないということです。

## 夜泣き封じのお地蔵さん　1
![夜泣き封じのお地蔵さん　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0100.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

夜泣き封じのお地蔵さんある祭の夜のこと、お酒をのんだ若者たちが、ちどりあしで歩いていました。「お祭りが終わったあとは、むしょうにさびしいなあ。なにか、おもしろいことはねえかやあ」ひとりの若者がそういうと、ほかのみんなも、「そうだ、そうだ」といってさわぎだしました。

## 夜泣き封じのお地蔵さん　2
![夜泣き封じのお地蔵さん　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0101.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

円城寺の前にきたとき、雲の間から顔を出した月が、入り口のお地蔵さんをてらしました。「そうだ、このお地蔵さんをどこまで、かついでいけるか、力くらべをしてみるか」はじめ、だまって見ていた者も、そのうちに仲間になって、お地蔵さんをあちこちかつぎまわり、力をきそいましたが、夜明けまじかになっても、勝負がつかないまま、家へかえってしまいました。「おや、どうしてこんなところに、お地蔵さんが立っていなさるか」

## 夜泣き封じのお地蔵さん　3
![夜泣き封じのお地蔵さん　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0102.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

朝早く起きたじっさまは、やしきの入口に、お地蔵さまが立っていたので、びっくりしてしまいました。そこにばっさまや、孫たちも出てきて、「ほんにふしぎなことがあったもんだ」といって、手をあわせておがんだり、さわったりしました。そのうちにとなりのじっさまも出てきて、「なにを大さわぎしてると思ったら、こりゃ、円城寺のお地蔵さんじゃねえか。おおかた、酒の入ったわけえしゅうが、力比べでもやっつら。まあ、二、三日供養(くよう)して、円城寺へお返しするがいい」

## 夜泣き封じのお地蔵さん　4
![夜泣き封じのお地蔵さん　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0103.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

といって手を合わせました。その晩から、ふしぎなことにそれまで、はげしかった赤子の夜泣きが、すっかり止まりました。それからは、「これは、夜泣き封じのありがたいお地蔵さんだ」と、村中の人たちからよばれ、今もお参りする人たちが、たえないということです。

## 犬猿の仲　1
![犬猿の仲　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0104.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

犬猿の仲むかし、信濃の国、中山の山里、庄屋の家におみつという娘がおりましたが、生来病弱で、大人になってからもほとんど、床についていました。しかし、子どものころから飼っていた子犬となかよしで、犬の世話をするときは、不思議に寝床からはいずりだして、えさをやったり、からだをあらったりしてかわいがっていました。「おみつはいつも寝てばかりいるが、犬の世話をするときは元気が出るなあ」庄屋夫妻は、おみつの病気について、いく人もの、医者に相談し調べてもらっていましたが、なかなか原因がわからなかったので、高名な占い師に占ってもらいました。

## 犬猿の仲　2
![犬猿の仲　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0105.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「わかりました、ご両親さま、むすめさんは医者の薬では治りません。娘さんの病気を治すには猿の肝(きも)をほし、それをせんじて飲めば治ります」といいました。「猿の肝をねえ」両親はおどろいて目をぱちくりさせながら、占い師の顔に目をやりました。「猿には気の毒だが、明日にでも鉄砲うちの権太郎さのところにいって、猿の肝とりをお願いしてこずばなるまい」庄屋は妻と相談し、あくる日夜明けをまって、権太郎さの家を訪ね、猿の話を頼みました。

## 犬猿の仲　3
![犬猿の仲　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0106.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「おらも、猿をうつことはいやだが、庄屋さんに頼まれれば、娘さんのためにもやらずばなるまい。そうなるとお願いですが、おらのかっている犬が病気で弱ってしまったので、庄屋さんの家の犬をお借りできませんか。聞くところによると、娘さんがかわいがっている大変かしこい犬だそうですので・・・」「わかりました。娘が可愛がっている犬なので、きっと役にたつと思いますでのう。よろしくお願いいたします」庄屋さんは権太郎さが承知してくれたので、胸をなでおろしながら帰路につきました。

## 犬猿の仲　4
![犬猿の仲　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0107.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

権太郎さはそれから三日後、庄屋の犬を借りて、里山から半日ほど山奥へ入ったところにある猿山へ出かけました。猿山とよばれるだけあって、猿たちは木の上をとびまわったり、岩で日向ぼっこをしていました。権太郎さは、岩の上の親子猿に目をつけると、だんだんと猿に近づき、木のかげにかくれました。（許せ猿たちよ、娘の病気を治すためだから仕方あるまい）そう自分に言い聞かせ、鉄砲をかまえて引き金をひこうとしたときでした。今までこの様子をじっと見ていた犬が、さっと、権太郎さのかまえていた腕にとびついていきました。

## 犬猿の仲　5
![犬猿の仲　5の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0108.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「おい、いい子だからじゃまするなよ。おまえを可愛がっている娘さんのためだから」権太郎さは犬をなだめ、何度も親猿をねらいましたが、そのたびに、犬は腕にとびついて腕から口をはなしませんでした。「おいおい、じゃまするでない」と初めは困った犬だと思っていた権太郎さも腕にしがみついてくる犬や、親猿の乳房にすいついている子猿のすがたを見て、肩から鉄砲をおろしました。

## 犬猿の仲　6
![犬猿の仲　6の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0109.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「よしよし、おまえは、よくおらのざんこくな気持ちをおさえてくれたなあ。おらだって、子猿の様子をみてせつなかっただよ。お前には娘さんの気持ちがのりうつっている。娘さんの気持ちと同じだ。娘さんだって猿の肝なんかほしくないのにちがいない。わかった。お前のこのあたたかな気持ちを娘さんに伝えておくれ」権太郎さは、犬の頭をなでながら、久しぶりに目をうるませました。猿山からもどった権太郎さは、すぐその足で庄屋をたずね、山での犬の様子を伝えました。

## 犬猿の仲　7
![犬猿の仲　7の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0110.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

「ようし、わかった。娘も犬といっしょに猿の親子をかばったにちがいない。おまえさん、よくしんぼうしてくれた。これからはむすめも犬といっしょに猿の肝にたよらなくても病とたたかってくれるにそういない」二人の話を聞いていたおみつは、目頭をおさえつづけていました。おみつは猿山での話をきいてから、いっそう犬がかわいくなり、犬の世話ばかりか、そのうちにいっしょに散歩するようになりました。すると、おみつの病は日ごとに快方にむかい、やがて元気なからだをとりもどしたということです。めでたし、めでたし。

## 犬のフク　１
![犬のフク　１の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0111.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

犬のフク高遠山のふもとに住んでいたユキエさんは六十歳、戌(いぬ)年のとき、ご主人をなくし、いく日もの間、食事ものどを通らず、途方にくれていました。一か月過ぎた夜中のこと、死んだご主人が夢枕(ゆめまくら)にあらわれ、「東山を一つ越えた集落に山口さんという家がある。このあいだ、オス犬が生まれた。今はかわいい犬だが、大きくなったら村人のために大きな

## 犬のフク　2
![犬のフク　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0112.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

仕事をする犬だと思う。福をもたらす犬だからフクと名づけ、わしだと思って飼ってくれ」と生きていた時と同じように話しかけてきました。うれしくなったユキエさんは、夜明けとともに山口さんをたずねると、夢で見たとおり、かわいい犬が飼われていました。ユキエさんが、夢に出てきたことやその中でご主人が言ったことを話すと、山口さんはこころよくゆずってくれました。それからユキエさんは、犬をなくなったご主人の生まれ変わりだと信じ、「フク、フク」と犬の名前をよび、放し飼いで、朝から晩まで生活を共にしました。

## 犬のフク　3
![犬のフク　3の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0113.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

フクはかしこい犬で、小川から魚をつかまえてきたり、山の中に入って松茸をさがしてきてユキエさんの手にわたすこともありました。いく年かたつと、フクはユキエさんの言葉がわかるようになり、からだも子牛ほどに大きくなりました。そのころ、村の畑にイノシシが出て、苦労して作ったサツマイモやカボチャなどの野菜が食べられるような被害があとをたちませんでした。村の長者がユキエさんの家にやってきて「ごぞんじのように、このごろイノシシが畑をあらし、野菜をたべてしまいこまっている。中に大イノシシがいて、こいつが仲間

## 犬のフク　4
![犬のフク　4の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0114.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

をひきつれてあらしておる。村のみんなに相談したところ、この大イノシシやっつけられるのは、お宅のフクしかいないとみんな口をそろえていった。どうか、お願いします、助けてください」とふかぶかと頭を下げました。「わかりました。フクならやってくれると思います」と迷わず返事をしました。それから三日ほど過ぎた月夜の晩、ユキエさんはフクをつれ、村の若者とイノシシがいつも通るケモノ道の草かげにかくれて待っていました。

## 犬のフク　5
![犬のフク　5の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0115.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

やがて大イノシシが子分どもをつれてすがたを見せた時、フクはすばやく大イノシシの後ろにまわり、シリにかみつきました。大イノシシも首をまわして、フクをキバでつこうとしましたが、それよりはやくフクが動くのでつくことができません。なんとかフクからのがれた大イノシシは、とてもかなわないと、山の中へ逃げ帰り、子分たちもあとに続きました。

## 犬のフク　6
![犬のフク　6の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0116.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

そのことがあってから、イノシシが畑をあらすことはなくなり、村人は手をあわせて、フクに感謝しました。それからのち、ユキエさんはフクといっしょにご主人の墓参りをする日が多くなりました。

## あとがき　1
![あとがき　1の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0117.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

あとがき髙田充也私たちが住んでいる中山には、昔話、伝説、世間話などの民話が、数多く残っています。民話は昔話（むかし、むかしで始まり、場所がわかっていない）、伝説（場所がわかっている）、世間話（村々で語られてきた話）などに分類されています。民話は私たちの、先人が残してくれた宝物であり、文学です。私は子どもの頃、いろり端で兄弟たちといっしょに祖父母から『泉小太郎』などの民話を聞いて育ってきました。話のおわりのほうで、「お前たちも、泉小太郎のような思いやりのある人になっておくれ」と祖母たちは念をおしました。こうした思いや

## あとがき　2
![あとがき　2の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0118.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

りの民話について聞き歩き、中山の公民館報や雑誌、単行本などに発表してきました。しかし、中山の民話を一冊にまとめた本がなかったので、何とか残したいと思い、鈴木館長さんに私の意向をお話ししたところ、快く賛成して下さいました。早々と館長さんは民話のすべてをパソコンで入力して下さり、そこへ挿絵をそえて作成していただきました。私の希望は、中山地区全戸の皆さんに読んで欲しい願いだったのです。その思いを中山文化協議会の皆さまが汲んで下さり資金集めの先頭にたっていただけたこと、感謝の念に堪えません。そしてなにより多くの住民の皆さんにご協力頂けたことに、心からお礼申しあげます。誠にありがとうございました。―感謝―

## 著者　発行
![著者　発行の画像](https://img01.ebook5.net/shinshu/minwa/contents/image/book/medium/image-0119.jpg)

【ページ内のテキスト情報】

みつなり著者髙田充也1927年松本市生まれ。長野師範、早稲田大学文学部卒。信州児童文学会会員。県内の小中学校に勤務、東筑摩郡朝日小学校校長を最期に退職。その後、朝日村ふたば保育園園長、松本市公民館会会長、松本市明るい選挙推進協議会会長などを務める。童話『中山っ原』三部作で信州児童文学会作品賞、『鉢伏山の民話』で塚原健二郎文学奨励賞を受賞。その他民話に『松本の民話』『鉢盛山の民話』『松本城の民話』『犀川の民話』『語りつぐ民話』『善光寺街道の民話』『北アルプスの民話』、絵本に『泉小太郎』『ものぐさ太郎』『だいだらぼっち』『僕のお嫁さんになってね』、童話に『きょうとう先生ものがたり』『松本一本ねぎ』『笹賀おしどり桜』、伝記に『手塚縫蔵』『荻原碌山』『吉江狐雁』などがある。2006年文化の日、松本市芸術文化功労賞受賞。2015年『瑞宝双光章』受賞。現在「松本民話の会」顧問、松本文化財協議会顧問。中山の民話2019年8月吉日発行著者文・題字髙田充也挿絵鈴木幹夫発行松本市中山地区公民館住所松本市中山３７４６－１℡０２６３－５８－５８２２Fax０２６３－８５－１０１６E-mailnakayama-k@city.matsumoto.lg.jp印刷製本光文社印刷(株)

