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かかりつけ医のためのかかりつけ医のためのかかりくわかるくわかるよくよくわかるHIVIV感染症染症診療ガイド療ガ<改訂第訂第5版>版>版LiLivivingwithHIV/AIAIDSHiHiHiririroshimimimauniversitytytytyHoHoHospspspitatatatalよくわかるよくわかるよくわかるよくわかる

「かかりつけ医のためのよくわかるのよかるHIV感染症診療ガイド」症診療ガイド」改」改訂第5版の監修にあたりHIV感染症は近年治療薬の進歩によって,抗ウイルス薬を内服し続けることでコントロール可能な慢性疾患となりました。患者さんの多くは元気に日常生活を送り,仕事や学業を続けたり,子どもを持つことができ,健康な人と同じくらい長生きすることができます。その一方で脂質異常症,糖尿病や高血圧などの生活習慣病を合併する患者さんも多く見られます。また近年はエイズとは関連性のない悪性腫瘍によって亡くなる患者さんも増えています。日常診療では慢性疾患としての管理が主体で,むしろ地域の先生方のお力を発揮して頂けることのほうが多いのです。今後社会全体の高齢化に伴ってHIV患者さんも高齢化を迎え,合併症を抱える方が増えることは避けられません。その時にこそ医療機関の連携が必要となります。この冊子では専門病院でなくともHIV感染症の患者さんを診療できるよう,HIV感染症に関する基礎知識,日常診療の管理,曝露事故対策などをわかりやすく記載しました。この冊子が先生方の日常診療のお役に立てれば幸いです。広島大学病院エイズ医療対策室山﨑尚也福山医療センターエイズ治療センター齊藤誠司

INDEXよくわかる①よくわかる②よくわかる③よくわかる④よくわかる⑤よくわかる⑥HIV感染症とは抗HIV療法日常診療の管理曝露(後)予防医療制度と福祉メンタルヘルス終わりに

HHumanヒト人間に感染するIImmunodeficiency免疫不全免疫を働かせなくするVVirusウイルス病原体の一種AAcquired後天性生まれつきではなくIImmune免疫体を異物から守るシステムDDeficiency不全うまく働かないSSyndrome症候群様々な症状HHumanヒト人間に感染する~HIVとAIDSの違いは︖~よくわかる①HIV感染症とは1

ここではHIV感染症の基本的な知識とHIVの検査について解説していきます。•ヒト免疫不全ウイルス(HIV);エイズを引き起こす原因ウイルスです。•後天性免疫不全症候群(AIDS);HIVに感染後何年か経過し,免疫不全が進行した結果,診断基準(世界保健機構,厚労省)を満たす疾患を発病した状態を指します。•診断基準を満たすには23の日和見疾患(6ページ参照)のうち一つ以上発症すること,があります。•HIV感染症を診断したら,第5類感染症として所轄の保健所に7日以内に報告します。•市町村の保健所では無料・匿名HIV抗体検査を行っています。2

よくわかる①HIV感染症とは~HIVによる免疫不全とは︖~好中球白血球(末梢血)好酸球好塩基球単球リンパ球Tリンパ球CD4+CD8+Bリンパ球CD19+CD20+NKリンパ球,その他この細胞にHIVが感染する3

CD4陽性リンパ球=司令官CD4陽性リンパ球数(個/μL)=白血球数×リンパ球(%)×CD4陽性リンパ球(%)基準値700~1300(個/μL)HIVは細胞性免疫をコントロールしているCD4陽性Tリンパ球に感染・増殖し,アポトーシスを誘導します。免疫の司令官を失った体内では,過去に獲得した免疫も失われ,易感染性となります。その結果,健常者では発症しない感染症(日和見感染症)やウイルスが関連するがんを引き起こします。4

よくわかる①HIV感染症とは~HIV感染症の経過~HIV感染CD4陽性リンパ球数∬∬抗体ウイルス量1~3カ月急性期数年無症候期∬1~3年AIDS期見逃しやすい他の人に感染させやすい見つかりにくい…死亡ニューモシスチス肺炎原発性脳悪性リンパ腫サイトメガロウイルス網膜炎5

23のエイズ指標疾患赤色は頻度が多いもの*は注釈あり(詳細は成書参照)A.真菌感染症①深在性カンジダ症*,②クリプトコッカス症*,③コクシジオイデス症*④ヒストプラズマ症*,⑤ニューモシスチス肺炎B.原虫感染症⑥トキソプラズマ脳症*,⑦クリプトスポリジウム症*,⑧イソスポラ症*C.細菌感染症⑨化膿性細菌感染症*,⑩サルモネラ菌血症*,⑪活動性結核*,⑫非結核性抗酸菌症*D.ウイルス感染症⑬サイトメガロウイルス感染症*⑭単純ヘルペスウイルス感染症*⑮進行性多巣性白質脳症E.続発性腫瘍⑯カポジ肉腫,⑰原発性脳リンパ腫⑱非ホジキンリンパ腫*,⑲浸潤性子宮頸癌*F.その他⑳反復性肺炎,㉑リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成,㉒HIV脳炎,㉓HIV消耗性症候群6

よくわかる①HIV感染症とは~HIV感染症の昔と今は︖~昔(1980年代)•エイズパニック︕•感染力が強い︖︕•治療法がない…•非加熱血漿由来凝固因子製剤により多くの血友病患者さんが感染した•多くの患者さんがエイズを発症して死亡…かつてはマスコミに過大に取り上げられたことで社会にパニックを引き起こしました。未知の感染症として恐れられ,血液製剤由来による感染で,多くの血友病患者さんの命が失われました。7

今•エイズへの関心が低下…•感染力は比較的弱い•1日1回1錠の内服治療が主体•同性間性交渉による男性感染者が多いが異性間の女性感染者も1割程度いる•患者さんは長期生存できるようになり高齢化現在は治療法が進歩し,副作用や相互作用の少ない飲みやすい治療薬によってエイズを発病することなく,ほとんどの患者さんが健常者と同じように日常生活を送っています。8

よくわかる①HIV感染症とは~HIV検査について~•口頭で良いので,本人の同意を得て検査する•プライバシーの保護(検査結果は例え家族やパートナーであっても本人の同意なしで伝えない)•検査前後のカウンセリング(第6章メンタルヘルスの項参照)•妊婦検査の結果は母子手帳に記載しない•就労時・就学時の検査は行わない(厚労省健康局疾病対策課長通知より)その他の性感染症がある場合,その既往がある場合,もしくは疑われる場合に保険診療上,スクリーニング検査は実施可能です。9

日常診療で梅毒やB型肝炎など性行為感染症を診断した際には,ぜひHIV検査も勧めてみてください。<検査の保険点数>HIVスクリーニング検査HIV-1,2抗原・抗体定性109点定量127点確認検査HIV-1/2特異抗体660点HIV-1PCR法520点スクリーニング検査を行わずに確認検査を行うと保険診療上,査定されますのでご注意ください。*詳細は『HIV検査について』『初めてでもできるHIV検査の勧め方,告知の仕方』広島大学病院エイズ医療対策室発行を参照10

よくわかる①HIV感染症とは~U=Uとは︖PrEPとは︖~•近年,HIVの啓発ポスターなどで目にするU=Uというメッセージは,『Undetectable︓検出限界値未満=Untransmittable︓HIV感染しない』という意味です•つまり,血液中のHIVウイルス量が200コピー/mL未満を6ヶ月以上維持している状態のHIV陽性者は,たとえ防護のない性行為を通じても他の人にHIVを感染させることはないというメッセージです参考︓U=UJapanProjectHP11

HIV感染症は治療の進歩と普及により,他者へ感染させない,他者から感染しない時代へと移り変わってきました。•PrEP(プレップ)とは,曝露前予防内服(Pre-exposureprophylaxis)のことで,性行為をする前から抗HIV薬を服用することにより,HIV感染のリスクを減らすというHIV/エイズ予防法の選択肢です•使用される薬はTDF/FTC(ツルバダ®)もしくはTAF(H)/FTC(デシコビ®HT)で,全額自費となり,毎日服薬するデイリーPrEPとリスク行為の前後で服用するオンデマンドPrEPがありますPrEPPはフォローとモニタリングを行う見守り診療が大切です。日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)―利用者ガイド―を参照12

~抗HIV薬はどうやって効く︖~よくわかる②抗HIV療法●●●●●●●●●●●●①融合・侵入阻害剤②核酸系・非核酸系逆転写酵素阻害剤③インテグラーゼ阻害剤④プロテアーゼ阻害剤DNA合成吸着・融合・侵入組込み蛋白合成蛋白分解・修飾ウイルス組立てRNA合成発芽・放出単剤での投与では,HIVは容易に耐性変異を獲得しますので,必ず多剤併用で治療を行います。⑤カプシド阻害剤13

インテグラーゼ阻害薬の登場により,治療効果が高く,副作用や薬剤相互作用の少ない抗HIV療法が可能となりました。①融合・侵入阻害薬(CCR5阻害薬)︔HIVが感染細胞に侵入する際に使用されるケモカイン受容体(CCR5)へのウイルスの結合を阻害する。②核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)・非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)︔HIV-RNAの宿主DNAへの組み込みに関わる逆転写酵素の働きを阻害する。③インテグラーゼ阻害薬(INSTII)︔逆転写されたプロウイルスDNAの宿主DNAの組み込みを阻害する。④プロテアーゼ阻害剤(PI)︔ウイルスのタンパク前駆体を切断する酵素を阻害することで,ウイルス粒子の成熟を抑える。⑤カプシド阻害剤︔ウイルスのカプシド(殻)の形成、ウイルスの放出などカプシド機能を多段階で阻害する。現在メインで使われる薬剤14

よくわかる②抗HIV療法~初回治療の推奨レジメンは︖~推奨<インテグラーゼ阻害剤ベース>BIC/TAF/FTC(ビクタルビ®配合錠)DTG/ABC/3TC(トリーメク配合錠)DTG(テビケイ)+TAF(H)/FTC(デシコビ®HT)DTG/3TC(ドウベイト®配合錠)代替<インテグラーゼ阻害剤ベース>RAL(アイセントレス®)+TAF(H)/FTC(デシコビ®HT)<プロテアーゼ阻害剤ベース>DRV/COBI(プレジコビックス®配合錠)+TAF(L)/FTC(デシコビ®LT)<非核酸系逆転写酵素阻害剤ベース>DOR(ピュフェルトロ®)+TAF(H)/FTC(デシコビ®HT)RPV/TAF(H)/FTC(オデフシィ®配合錠)15

近年はより飲みやすい小さい錠剤,1錠の合剤が主流となったことで,服薬アドヒアランス向上にも寄与しています。Singletabletregimen(STR)1日1回1錠食事に関係なしBIC/TAF/FTC(ビクタルビ®配合錠)50mg/50mg/200mg1錠1日1回1錠食事に関係なしDTG/3TC(ドウベイト®配合錠)50mg/300mg1錠1日1回2錠食事に関係なしDTG(テビケイ)50mg1錠+TAF/FTC(デシコビ®HT)25mg/200mg1錠HIV感染症「治療の手引き」第28版、2024年12月日本エイズ学会HIV感染症治療委員会を一部改訂16

よくわかる②抗HIV療法~注射剤ってどんな治療︖~特徴・切り替え前6ヵ月間以上においてウイルス学的抑制(ウイルス量<50copies/mL)が得られており,耐性関連変異を持たない成人患者さんに用いられます・毎日の服薬,飲み忘れの心配による治療の負担が減ります・治療薬から周囲に病気のことを知られる可能性が少なくなります・内服が難しい高齢患者さん,中枢神経系病変や認知症を合併していて内服ができない患者さんにとって有用です用法・1か月に1回もしくは2か月に1回の頻度で,外来通院で臀部筋肉内に2剤を筋肉注射します・治療開始時には忍容性の確認のため,1か月間ボカブリア錠およびエジュラント®錠を経口投与します・投与基準日の前後1週間で注射を打たなくてはいけません・投与基準日の7日後までに投与できない場合は錠剤への切り替えが必要となります副作用・注射部位反応(疼痛、結節、硬結)(10%以上),頭痛,不眠症,めまい,筋肉痛,発熱,疲労などの副作用があります17

長時間作用型の注射剤ボカブリア水懸筋注(カボテグラビル持効性懸濁注射液)︔インテグラーゼ阻害剤(INSTI)1ヵ月間隔︔初回600mg,2回目以降は400mgを1ヵ月に1回2ヵ月間隔︔初回600mg,2回目は1ヵ月後に600m,以降は600mgを2ヵ月に1回リカムビス®水懸筋注(リルピビリン持効性懸濁注射液)︔非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)1ヵ月間隔︔初回900mg,2回目以降は600mgを1ヵ月に1回2ヵ月間隔︔初回900mg,2回目は1ヵ月後に900m,以降は900mgを2ヵ月に1回ACC患者ノート「からだ・こころ・くらし・くすりノート」より18

よくわかる②抗HIV療法~こんな時はどうしますか︖~Q.仕事が多忙で途中で薬を飲み忘れたことに気づいたのですが,どうしたらよいですか?A.気づいた時点で飲んで下さい。Q.夕食後に薬を飲むことになっていますが,今日は飲み会があります。どうしたらよいですか?A.飲酒自体は薬への影響はありません。いつも通り服用してください。酔い過ぎによる薬の飲み忘れには気をつけて下さい。19

Q.風邪をひいたのでかかりつけの内科医院に受診したいと思います。薬の組み合わせが問題になるとのことでしたが大丈夫でしょうか?A.薬によっては飲み合わせが悪いものもあります。医師,薬剤師に確認して下さい。Q.服用後,吐いてしまいました。すぐに飲んだ方が良いですか?A.服用後に嘔吐した場合は、再度服用することは避けてください。次の服用時間に嘔気がなくなり服用できるようになったら,次の時間の薬を服用してください。20

よくわかる③日常診療の管理~患者さんの抱える合併症~生活習慣病•脂質異常症•高血圧症•糖尿病•喫煙による合併症•動脈硬化症抗HIV薬による脂質異常症が起こりやすく,喫煙率も高いことから,動脈硬化症が進展しているケースもあります。将来の心血管系疾患の発症に注意が必要です。ぜひ禁煙外来への受診を勧めて下さい。21

ここではかかりつけの先生方に定期的にフォローしていただきたい合併症やプライマリケアについて解説します。頻度の高い疾患•慢性腎臓病•骨減少症,骨粗鬆症•非エイズ指標悪性腫瘍(肺がん,肝細胞がん,肛門がん,ホジキンリンパ腫,精巣腫瘍,皮膚がん,頭頸部がんなど)腎機能へ影響する抗HIV薬を過去に長期間使用されていたケースでは,腎障害から透析になるリスクもあります。喫煙の影響による肺がんリスクは非感染者より高くなります。また肝炎ウイルスの重複感染例では慢性化率,発がん率が高くなります。定期的な肝細胞がんのスクリーニング検査を行う必要があります。22

よくわかる③日常診療の管理~よく受診するケースは︖~土日の受診仕事が多忙で,土日もしくは平日夕方にしか受診できない患者さんがいます。生活習慣病の治療脂質異常,高血圧症,糖尿病などを合併する患者さんも多く,かかりつけ医の先生による管理が欠かせません。よくある対応拠点病院に通院している患者さんがかぜ・インフルエンザ・コロナウイルス感染・頭痛・腹痛・不眠などで受診したい場合。23

こういったことで受診されました際にはぜひプライマリケアをお願いできればと思います。定期の注射血友病患者さんで血液製剤の自己注射が困難なケースでは,定期注射のための通院を必要とします。往診血友病による関節障害や中枢神経病変の後遺症で移動が困難な患者さんがいます。訪問診療による投薬,注射を必要とします。透析抗ウイルス薬の副作用による腎障害や糖尿病のため腎不全となるケースがあります。遠方のため拠点病院への通院が困難な患者さんがいます。24

よくわかる③日常診療の管理~普段の診療で行うこと~抗HIV薬の継続ウイルス量がコントロールされCD4リンパ球数が安定している患者さんでは,2~3か月毎の通院が目安です。問診•内服の飲み忘れ,飲み遅れ回数•飲み忘れた原因,対処法•体重の増減,食事内容,運動量•必要時︔就労環境,睡眠状況,パートナーや家族との関係性,最近の性交渉歴など飲み忘れを注意するのではなく,その原因と対処法を患者さんと一緒に考えていくことが大切です。25

拠点病院では日常診療でこれらの問診・検査等を行っています。必要に応じてクリニックでも検査を行ってください。検査受診毎もしくは6ヶ月に1回程度を目安•血算(分類あり)•CD4/CD8リンパ球数•HIV-RNA定量検査(PCR法)•生化学一般(肝機能,腎機能,電解質,脂質,必要なら血糖値,HbA1c,尿検査など)•必要時︔梅毒検査,ウイルス性肝炎のスクリーニング,腹部エコー検査•年1回程度推奨(必要時)︔動脈硬化症の評価(PWV/ABI,頸動脈エコー),骨密度測定,胸部レントゲン検査処方時にはお薬手帳にて抗HIV薬と併用禁忌薬がないかチェックして下さい。ご不明な点は紹介元医療機関へお問い合わせください。26

~検査結果の解釈は︖~よくわかる③日常診療の管理HIV-RNRNA定量(コピー/ml)/)/)③>500が続く①<20②20~500が続く治療奏功経過観察経過観察服薬指導数回の検査結果で判断薬剤耐性検査を考慮服薬アドヒアランスの再確認専門施設へ相談『ブリップ』と呼ばれるウイルス量が数十~数百コピー程度の一過性の上昇を経験することがあります。1度のウイルス検出は飲み忘れや服薬中断によるものですが,継続して高値が検出される場合には耐性出現の可能性があります。27

CD4リンパ球数(個/μL)<200200~500>500日和見感染のリスクがあるため予防内服考慮ウイルス量がコントロールできていれば経過観察経過観察CD4リンパ球数は白血球数やリンパ球の比率に影響されるため,毎回30%程度の増減は見られます。AIDS発病者や高齢患者ではCD4数が長期に渡り少ない例もありますが,ウイルス量がコントロールされていれば大きな問題はありません。28

よくわかる③日常診療の管理~性行為感染症とワクチン接種~性行為感染症•梅毒•肝炎ウイルス(HAV,HBV,HCV)•尖圭コンジローマ•赤痢アメーバ感染症•淋菌•性器クラミジア感染症•性器ヘルペス•毛じらみ梅毒は近年若年層を中心に男女を問わず患者数が増加しています。再感染が多く,症状に乏しいことから,年1-2回程度のスクリーニング検査(RPR法)を勧めます。29

HIV感染者ではインフルエンザによる重症化のリスクが高いため,ぜひインフルエンザワクチン接種を勧めてください。推奨ワクチン•HBV(4週間隔で2回、20-24週経過後に1回の計3回)•HAV(2-4週間隔で2回、初回接種24週後に1回の計3回)•肺炎球菌(13価は1回、23価は5年ごとに再接種)•インフルエンザ(毎年1回)•帯状疱疹(50歳以上)•コロナウイルス・RSV(重症化リスクに応じて必要時)CD4<200ではワクチン接種による抗体獲得率が低いことがわかっています。またBCG,生ポリオなど生ワクチンの接種は禁忌です。30

よくわかる③日常診療の管理~HIV感染者に起こりやすい問題は︖~精神疾患•睡眠障害•抑うつ傾向,うつ病•不安障害•適応障害•薬物依存症,アルコール依存症•HIV関連神経認知疾患(HAND)HIV関連神経認知疾患(HAND)…HIVは中枢神経系へ入り込みやすく,その機能障害・組織破壊をもたらします。それにより認知障害・運動障害・行動異常などを引き起こし,日常生活に支障をきたします。近年では無症候性~軽度の認知障害が増えています。31

メンタルヘルスを崩しやすい患者さんも多く,重症なケースではかかりつけの精神科クリニックの協力が欠かせません。みんなで支えるエイズ診療歯科医院拠点病院かかりつけ医患者さんの問題訪問看護総合病院地域福祉保険薬局患者さんが身近な医療機関で安心して治療を続けていけるよう,地域の医療機関どうしが連携して患者さんを支えていく診療体制が必要です。32

~HIV感染の針刺しリスク~よくわかる④曝露(後)予防HBVHCVHIV血液1ml中のウイルス量(コピー/mL)107-9105-7103-5針刺し1回あたり約30%約3%約0.3%HBVHCV各ウイルスの感染性体液別の感染リスク尿便痰唾液汗涙髄液胸水腹水心嚢水羊水膿血液精液膣分泌液血性体液>>>>感染性体液%約>%>33

標準予防策を行っていれば、HIVが認められる血液・体液の曝露を予防できます。標準予防策(StandardPrecautions:SP)標準予防策の対象物HIVが認められる・血液汗を除く)・分泌物・排泄物・粘膜・損傷した皮膚>・血液・精液・膣分泌液・母乳・血交じり唾液手が汚染手袋体が汚染顔の粘膜が汚染ガウンエプロンマスクゴーグル34

よくわかる④曝露(後)予防~血液・体液曝露事故発生時の対処①~まず落ち着いて曝露部位を大量の流水と石けん(眼球曝露の場合は流水)で洗浄します。流水がない場合は刺激の少ない速乾性の手指洗浄ジェルでも構いません。予防内服の必要性を判断し,必要と判断されれば速やかに内服を開始します*。*右のフローチャート参照(詳細は広島県地域保健対策協議会ホームページより閲覧可能)事故を起こした職員のプライバシーには配慮して下さい。またHIVのみでなくHBVやHCVも考慮して対応する必要があります。35

体液曝露事故の発生曝露由来患者(以下患者という)はHIV抗体が陽性か否か抗HIV薬の内服抗HIV薬(3剤)受領・内服内服継続の判断拠点病院に受診(協力医療機関に受診した場合)拠点病院等に受診(ただし,被曝露者が妊娠している場合はブロック拠点病院に受診する。)一般医療機関等拠点病院・協力医療機関できるだけ早く抗HIV薬の内服患者のHIV検査※事故後,拠点病院に受診ができず,協力医療機関に受診した場合は,後日,拠点病院に受診する①被曝露者の採血②患者の採血と情報(内服中の抗HIV薬,薬剤耐性,B型肝炎など)③紹介状の作成①~③を持参して受診する応急処置・現場責任者に報告抗HIV薬の内服陽性不明かつHIV抗体陽性が強く疑われる陰性予防内服は不必要希望する希望しない経過観察拠点病院等への電話連絡・診察依頼希望しない経過観察希望する①患者へのHIV検査の説明及び同意②患者の採血③被曝露者の採血④紹介状の作成②~④を持参して受診する陰性陽性経過観察しないする予防内服は不必要被曝露者のHIV検査(*1)被爆曝露者のHIV検査・予防内服の説明及び同意(*1)と同じ拠点病院医療従事者等における体液曝露事故後のHIV感染防止マニュアル(平成31年広島県地域保健対策協議会)より36

よくわかる④曝露(後)予防~血液・体液曝露事故発生時の対処②~推奨レジメンTAF(H)//FTC(デシコビ®HT)1日1回・1回1錠+RAL(アイセントレス®400㎎)1日2回・1回1錠もしくはRAL(アイセントレス®800㎎)1日1回・1回2錠もしくはDTG(テビケイ50㎎)1日1回・1回1錠<副作用・注意事項>デシコビ®HT・・・消化器症状など。アイセントレス®・・・頭痛など。吸収率が低下しますのでマグネシウム,アルミニウム含有制酸剤と併用は避けてください。テビケイ・・・頭痛、消化器症状など。37

•内服開始はできるだけ早くから(遅くとも72時間以内)•内服期間は4週間•72時間以内に被曝露者のHIV抗体検査を実施•2週間後に内服できているかを確認•6週後,3ヶ月後,6ヶ月後に再検•労災保険の療養給付対象,申請のために事故発生に関する記録を作成妊娠やB型肝炎がなく,院内に在庫がある場合にはそちらの薬剤を服用して頂いても構いませんが,その際は一度拠点病院にご相談下さい。参照;ACC:血液・体液曝露事故(針刺し事故)発生時の対応http://www.acc.ncgm.go.jp/doctor/eventSupport.html38

よくわかる⑤医療制度と福祉~HIV感染者が利用できる医療制度~1,身体障害者手帳(免疫機能障害)身体障害者福祉法が定めている様々なサービスが利用可能となります。基本的に4週間あけた2回の検査結果が必要です。HIVによる免疫機能の障害により,1級︓日常生活がほとんど不可能なもの2級︓日常生活が極度に制限されるもの3級︓日常生活が著しく制限されるもの4級︓社会での日常生活が著しく制限されるもの必要書類□身体障害者手帳交付申請書□指定医師の診断書・意見書□顔写真(縦4センチ×横3センチ)2枚身体障害者手帳を取得することで自立支援医療,重度心身障害者医療費助成制度による医療費助成を受けることができます。39

ここからは自己負担軽減のために,HIV感染者が利用できる医療制度について解説していきます。2,自立支援医療(更生医療)対象︓身体障害者手帳取得者‣年1回更新自己負担金︓1割負担で,所得に応じて上限2万円迄/月対象機関︓指定医療機関,指定薬局該当治療︓抗免疫療法,抗ウイルス療法など必要書類□自立支援医療申請書□要否意見書□保険証□所得証明書orマイナンバーカード3,重度心身障害者医療費助成制度対象︓手帳1,2,3級に該当し,所得制限あり自己負担︓基本的に無料(各自治体によって対象や助成内容・自己負担額は異なるため要確認)対象機関︓すべての医療機関必要書類□重度心身障害者医療費助成申請書□保険証40

よくわかる⑤医療制度と福祉~HIV診療を行う上で必要な登録申請~指定医療機関の登録障害者自立支援法第58条第1項に基づく自立支援医療(育成医療・更生医療)を行う場合,医療機関及び薬局は障害者自立支援法第54条第2項に基づき指定を受ける必要があります。指定医師の登録身体障害者手帳申請にかかる診断書を書くことができるのは,身体障害者福祉法第15条に規定する医師(「指定医師」)に限られます。※窓口となる行政機関は市町村によって異なるため,確認が必要です。提出書類は各機関のホームページにてダウンロードできます。41

指定医療機関認定までの流れ指定の為に必要な提出書類を準備提出書類を決められた行政の窓口へ提出審査部会にて判定審査結果が通知される審査から認定までの期間はおおよそ1ヶ月となり,指定年月日は原則として指定の決定がなされた月の翌月初日となります。42

よくわかる⑥メンタルヘルス~HIV感染者をとりまく心理・社会的問題~周囲に未告知•差別・偏見への恐れ•精神的孤立•家族・パートナーとの関係性セクシュアルマイノリティ•同性愛者,両性愛者,トランスジェンダー•対人関係構築への影響•幼少期からのいじめ•自尊感情の低下•生きづらさプライバシー保護セクシャリティへの配慮43

HIV感染以前から抱える問題•精神疾患•パーソナリティ障害•依存症(薬物,アルコール)•不安定な就労•脆弱な経済基盤メンタルヘルスの悪化受診中断・服薬アドヒアランスの低下44

~精神科受診・カウンセリング~よくわかる⑥メンタルヘルス□不眠□食欲低下□気分の落ち込み□意欲低下□不安が強く,落ち着かない□記憶力・判断力・理解力の低下□アルコール,薬物などの問題使用□本人が悩みを抱えている□スタッフが対応に困っているなど必ず精神科受診に繋ぎましょう。□不眠不眠□食欲低下食欲低下不眠食欲低下メンタルヘルスチェックリスト□自殺企図や自殺念慮□明らかな精神的変調(幻覚・妄想など)心理職へ紹介しましょう。心理職へ紹介しましょう。心精神科受診の必要性を判断して精神科受診のくれます。45

心理職の仕事•HIV陽性告知後カウンセリングでは,専門病院受診に向けて考えの整理や不安軽減を助けます。•通院中の患者さんが抱える悩みの相談に乗り,その人らしく生きていけるよう支援します。•面談や心理検査などにより,精神科受診の必要性・認知機能のアセスメントを行います。•必要な場合は患者さんの精神科受診への抵抗感軽減のための支援も行います。※派遣カウンセリング制度が利用できます⇒自治体から任命された専門家が,心理社会的支援を提供するために,病院などに派遣される制度です。詳細は各自治体に問い合わせください。(https://hiv-hospital.jp/counseling/「拠点病院診療案内」参照)46

終わりに~患者からのお願い~特定非営利活動法人りょうちゃんず前理事長藤原良次このたびは,広島大学病院藤井輝久先生をはじめ,広島大学病院エイズ対策室のHIV診療担当先生方のご尽力により,「かかりつけ医のためのよくわかるHIV感染症診療ガイド」が作成されたことは,非常に喜ばしいことでございます。この機会に,HIV・エイズ患者として一言申し上げたいと思い貴重なページを頂きました。HIV感染症は慢性疾患になったと言われる昨今ではあります。しかし,地域によっては患者は遠くの拠点病院へ受診しなければならず,風邪や管理がさほど難しくない慢性疾患と同じように,かかりつけ医で診療してもらいたいと多くの患者が願っています。エイズ治療ブロック拠点病院やブロック内拠点病院等と先生方が密な連携をとっていただければそれも可能であると確信しております。また万一の針刺し事故対応も正しい知識を持ち合わせ適切な対応を行えば,拠点病院との連携のもと,あわせて大丈夫です。いずれにしても,先生方のHIV感染症への関心が我々患者の生きるパワーとなります。日々の診療でお忙しいとは存じますが,先生方のお力を少しでもお貸し頂ければ幸いです。(2015年2月執筆)47

~MEMO~48

~MEMO~E-mail:49

<参考文献およびウェブ>1)広島大学病院エイズ医療対策室発行:『HIV検査について』,『初めてでもできるHIV検査の勧め方,告知の仕方』2)日本エイズ学会HIV感染症治療委員会:HIV感染症「治療の手引き」第24版、2024年12月3)渡邊大ら:抗HIV治療ガイドライン2024年3月4)広島県地域保健対策協議会:医療従事者等における体液曝露事故後のHIV感染防止マニュアル(令和6年度)5)国立国際医療センターエイズ治療・研究開発センターホームページ:血液・体液曝露事故(針刺し事故)発生時の対応かかりつけ医のためのよくわかるHIV感染症診療ガイド2025年2月発行広島県エイズ受託研究事業「中国・四国ブロックエイズ医療システム構築に関する調査研究」研究代表者:藤井輝久(発行者)編集者:広島大学病院エイズ医療対策室山﨑尚也福山医療センターエイズ治療センター齊藤誠司ご質問、ご提案は下記連絡先へ広島大学病院エイズ医療対策室広島市南区霞1-2-3Tel/Fax082-257-5351http://www.aids-chushi.or.jp非売品※無断複写・・転載を禁じます。50

